学校二学期制の全校導入は当面凍結し、再検討を

2004年2月16日
日本共産党足立区議団

はじめに
 足立区教育委員会(以後:区教委)は「『授業時数を増やし、基礎学力の向上』をすすめるため、」本年4月から二学期制を区立の小中学校全校で実施するとしていますが、モデル校での検討結果の検証もなく、学校現場や父母をはじめ広く区民の声を聞くこともないままの全校実施に疑問と不安の声があがっています。
 日本共産党足立区議団は区教委が2004年度から区立全小中学校に導入するとしている「学校二学期制」に対し、現時点では凍結し、再検討することを求めるものです。
 
1、「はじめに二学期制ありき」の区教委
 そもそも二学期制の問題については、中央教育審議会も「長期休業日の増減や二学期制の学期区分の工夫等については全国一律に実施する性格のものではなく、各教育委員会等の取り組みにゆだねるべき事柄である。各教育委員会がこれらの工夫を検討する場合であっても、地域社会や学校の実態等を踏まえた教育課程の編成を行う観点から、既に導入している地域や学校の実施状況等を参考にしつつ、それぞれの教育方針に基づいてその教育効果等を十分研究することが重要である。その際、検討にあたっては、長期休業期間が地域社会における子どもたちの体験活動や家庭教育の充実に果たしている役割、長期休業期間中に学校部活動の各種大会等が数多く行われている実態、児童生徒や教職員への過度の負担を与えないための環境整備等の状況についても考慮することが大切である」と明言しています。
 区教委の二学期制の導入にあたっての対応は、この答申からも程遠いやり方なのでしょうか。
 子どもの発達にとってより良い制度は二学期制なのか三学期制なのかは、現場教師(教育専門家)と父母に研究者などを加えた機関による十分な検討が不可欠です。ところが区教委は専門家や研究者を排除し、父母の意見をよく聞くこともなく、区教委内部だけの検討で強行しようとしています。
 しかも、検討委員会で二学期制のメリット、デメリットを充分分析し、全校で実施するに至った検討経過はみあたらず、教育長の一声で二学期制全校実施が決まり、校長会で押しつけたのです。

2、子どもにとって二学期制は本当によい制度なのでしょうか。
 区教委は二学期制を導入するにあたって4つのメリットをあげています。
 @授業時数の増加による「確かな学力」を育むA子どもと教員の接する時間の増加B長期休業中が学期の中に含まれるため連続性や発展性が追求しやすいC学期が長期化するため評価をじっくりすることができるとしています。
 しかし、これらすべては二学期制にしなくとも、現行の三学期制のもとでも可能なものです。まず、第一の「確かな学力」を育むという点では、すでに先行実施している学校の報告でも「授業時数は三学期制のままでも増やすことはできます」と報告されているように二学期制にしなくともできることです。
 第2の子どもと教員の接する時間について、区教委は通知表が3回から2回になることから教師のゆとりが生まれるとしていますが、実際はモデル校の経験から子どもや保護者に不安を与えないためとして長期休業前の7月と12月「学習カード」を発行していくとしています。
 これでは事実上の4学期制をつくることになり、教師からますます、「ゆとり」を奪い、子どもと接する時間を減らしかねません。
 第3の二学期制は学習の連続性や発展性が追求しやすいという点では、教育専門家からは長期休業中に学習の連続性が途切れてしまうという指摘があります。二学期制を先行実施している横浜市では夏休み後のテストの平均点が下がってしまったと報告されています。
 今、中学三年生は、まず1学期の成績に基づいて、7月に三者面談を行っています。そのことによって夏休みの課題や2学期の目標や行きたい高校を設定し、夏休み中に学習をしています。また、夏休み中、1学期の成績をもとにして高校見学や体験入学をしています。そして2学期になって再度中間・期末試験をし、内申の評定を出します。
 二期制ですと夏休み前の定期テストの資料(1回)で面接することになりますので資料が不足することになります。また評定が出ていないので判断がむずかしく、12月の内申確定の時に前期の評定プラス、11月のテスト1回だけで成績をつけることになり、チャンスが1回少なくなります。入試へのリズムが悪いことははっきりしていますし、修正や補強をしながらの進路指導になります。
 第4の学期の長期化にともなうメリットについても、現状の長期休業(夏休み、冬休み、春休み)が変わらないままの二学期制にはかなりの無理があることが指摘されています。
 来年度、三学期制のリズムの連合行事と二学期になったリズムの学校行事の間で、摩擦を起こすことになります。現に小学校の連合運動会は10月で二学期制の切り替え時期と重なっており、区教委は授業時数を確保するために、子どもたちが楽しみにしている塩原自然教室を廃止するとしています。
 しかし、今回廃止するとした塩原自然学習を含む校外学習は教育活動のひとつであり、小中学校の学習指導要領においてもそれぞれ特別活動の中の学校行事に位置づけられており、文科省もこうした行事の重要性を認めています。区教委のこうしたやり方は、区民がのぞむ「教育改革」にも逆行するものではないでしょうか。
 もともと、学期制は国によって異なり公教育が比較的早く成立したイギリス、フランスなどにおいては4月を学期のはじめとして三学期制をとってきました。 一方、アメリカ、ドイツ、中国などにおいては9月を学期の初めとして二学期制をとっていて一様ではありません。それぞれの国において事情や理由があり、いずれにしても二学期制も三学期制も絶対的なものではないといえます。
 わが国では1900年(明治33年)に小学校令が改正され、施行規則第27条「小学校の休業日」が定められ、その長期休業日との関連で三学期制がとられ、今日にいたる百年もの間、途切れることなく続いてきたというのは、三学期制がそれなりに合理性があるものだからとも考えられます。
 高温多湿の真夏には夏休みを、寒さが厳しく正月という民族行事のある季節に冬休みをもうけたことによって、1年間の学校行事と子どもの生活にリズムを生み出し、学期を成長の節目としてきたものです。
 宮城教育文化研究所長の中森孜郎氏は「年間の学校教育では1学期は学校生活や授業を軌道に乗せる。2学期はそれを受けて授業や学校生活を充実発展される。三学期はそれらの集大成をはかり1年間をまとめていく時期とらえられる」と述べています。

3、学力低下の真の原因は「新学習指導要領」にある
 今日、子ども達の「学力低下」の主要な原因のひとつは「新学習指導要領」にあることは教育関係者なら誰でも知っていることです。
 新学習指導要領は、現場教師や研究者らによって、すでに理論的にも実践的にも繰り返し明らかにされてきたように「幹を削って枝葉を残す」といわれるもので、具体的には大切にすべき教科の系統性や基礎的な事項が削り落とされました。同時に、学校5日制にともなう授業時数の三割削減に見合うほど教える内容が減っていないために、かえって一時間あたりの教える内容は大幅に増え、子どもがわかろうとわかるまいと授業のスピードをあげざるを得なくしています。その上、「総合的な学習の時間」や「選択教科」の拡大が教科の授業をいっそう圧迫しています。このことが、子どもと教師に負担をあたえ「学力低下」に拍車をかけています。
 いまの学習指導要領を作った責任者の三浦朱門氏は、この学習指導要領の実施で「学力低下は予想し得る不安と言うか、覚悟しながら教科審をやっとりました。いや逆に平均学力が下がらないようでは、これからの日本はどうにもならんということです」と述べ、できない者は「せめて実直な精神を養ってもらえばいい」(前教育課程審議会会長三浦朱門氏の発言 斎藤貴男『機会不平等』文芸春秋)と言い放ちました。学習指導要領を徹底的にすすめることで、子どもを「できる子」とその他大勢に選り分けようとしていることは明らかです。
 学力向上というなら区教委が自ら進めてきた新学習指導要領の徹底をこそ反省・検討すべきです。そのことをぬきに、ただ「授業時数」を増やすことだけに子どもと教職員を追い立てても「学力低下」を防ぐことにはならないのではないでしょうか。

4、「学校二学期制」の導入は、現時点では凍結し再検討を
 区教委はこの10数年来(吉田区政時代を除く)子ども達に必要な教育予算(教科・教材研究費)を毎年のように5%〜10%も削りつづけてきました。
 2004年度も10%も削っています。また、学校統廃合の強行で少人数学級から多人数学級へと、時代に逆行する行政を強権的にすすめるとともに、過度な競争や非合理的な学習指導要領の徹底などによって子ども達の学力向上や健やかな成長を阻害し、心と体の健康が脅かされています。
教職員もまた非常勤化や管理統制が強化される中で、現職死亡や中途退職、病気による休職などその命と健康が著しく脅かされています。
 いま、子どもと教職員に「ゆとり」はありません。ゆとりのないところに追い討ちをかける二学期制の押しつけでは「確かな学力」は育ちません。
こどもたちに真の「確かな学力」をつちかうためには30人学級など少人数学級、正規教職員の増員、教育予算の増額など教育諸条件を整備・充実をすすめることです。
二学期制にするのか三学期制にするのかは、父母、教職員、研究者などで構成する自主的な検討委員会を設置し、公開のもとで充分な検討を行うよう求めるものです。