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わが国の障害児教育は、大きな転換期をむかえ、障害児教育に関する法改正も進められています。
法案ではこれまで障害児教育の対象でなかったLD(学習障害)ADHD(注意欠陥多動性障害)、高機能自閉症(知能面の遅れをともなわない自閉症)など、軽度発達障害の子どもたちも対象に加えた特別支援教育を制度化するもので保護者から期待の声もあがっています。
同時に教員配置など具体的な推進体制がともなわなければ掛け声倒れになるとの懸念も指摘されています。
本素案も法案の成立をうけて具体化される部分が多く、また、必要な教員配置については明記されないなど不確実な状況の中でのパブリックコメントとなっています。
全体として、こういう点もふまえて盛り込めるものは可能な限り盛込み、今回、盛込めないものも今後盛込んでいくという柔軟に充実、発展させるというスタンスが求められていると思います。 |
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2、 |
はじめにの記述に関して
文部科学省、都教育委員会のこれまでの経過は記述していますが、足立区教育委員会として学校教育で生まれている課題やその課題との関連性も含めた特別支援教育の必要性を明確にして、なぜ「特別支援教育検討会」を立ち上げ、検討してきたのか、次のような趣旨を説明すべきです。
=現在、義務教育では、比較的重い障害をもつ10数万人の子どもたちが、障害児学校や通常の学校の障害児学級・通級教室という、障害児教育の制度のもとで学んでいる。
一方、LDなど、いわゆる「軽度発達障害」の子どもへの支援を抜本的に強めてほしいという声は、きわめて切実です。こうした声に押され、文科省は、LD、ADHD、高機能自閉症の子どもたちへの「特別支援教育」を開始する方向を打ち出しました。文科省は、LD、ADHD、高機能自閉症の子どもたちは全児童生徒の6・3%程度と推計(都の調査で足立区は5%)しており、その多くが、通常の学級で学んでいます。
そうした子どもたちに支援をおこなうことは、すべての子どもの教育を受ける権利を保障するうえで、さらに、障害をもつ人びとの「参加と平等」を推進するうえでも重要です。 |
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3、 |
個々の章の具体的文言については触れないが、計画をつくるうえで、前提条件(立脚点)として以下の立場にたつことを求めます。 |
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なによりも必要な人員の確保が必要。
理由=第1章の2に特別支援教育の理念と基本的考え方が示されているが、これを実現するためには教員の数が今以上に必要であるがこの点が触れられていない。LD、ADHD、高機能自閉症は、「軽度発達障害」と言われているが、子どもの悩みや状況はけっして軽いものではありません。例えばADHDの子どもは、脳の働きに障害があるため、注意を集中する力や、考えてから行動する力が弱いと指摘されています。 授業中落ち着きがなかったり、周りからは〃とっぴ〃と思われるような行動をとることがあり、そのため、友人関係がこじれて、人間不信に追い込まれる場合もあります。周囲の大人が、障害を理解せず、「なぜ、じっとしていられないんだ」などと怒り続けて、子どもの心を傷つけ、いっそう深刻な状況におちいることも少なくありません。
また、保護者や教員は、周囲から子育てや指導の仕方が悪いからだと責められ、自信を失うなど、その悩みも深刻である。子どもは一人ひとり違いがある。障害についての理解とともに、その子どもの背負っている悩みを受け止め、丁寧に関わる専門的な知識をもつ大人が必要だからである。文科省の学校教育法等一部「改正」案には、盲・ろう・養護学校の制度を、障害種別を超える「特別支援学校」との制度に改めると同時に、その下での標準法・高校標準法の規定を同時に変更することが打ち出されている。例えば盲学校の小学1年生に普通学級に2人、重複学級に6人の子どもがいる場合、現在では普通学級1学級、重複学級2学級、合計3学級として算定されている。障害種別を超え入学を認めることで、例えば知的障害の子ども、自閉症のこども、車椅子の子ども、聴覚障害の子どもが一人ずつ入学することになっても、単一障害であればどの子も普通学級に入学。学級数は増えず、教職員も全く増えません。1つの普通学級に多様な障害児が入学した状態で担任が指導することになります。これでは今よりも困難な状態になるので。また、第4章総合的な教育体制の整備については今後の法改正に合わせて修正することが前提となっているが、各学級(中教審では特別支援教室T・U・V)の教員の必要数については全く記述されていません。必要数を記述すべきです。 |
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A |
学級規模を小さくすることを前提に。
理由=子どもと直接関わる教員が別におかれるとしても、毎日子どもと接する担任教員の果たす役割は大切です。40人学級のままでは、困難をかかえる子どもをていねいに指導しようとしても限界がある。「30人以下学級」にすべきです。 |
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B |
すべての特別な支援が必要な子ども全体を対象にすべきです。
理由=特別な支援が必要な子どもは、LD、ADHD、高機能自閉症の子どもだけではなく、障害がなくとも、在日外国人の子ども、虐待等の困難をかかえている子ども、学習が遅れがちな子どもなども、特別な教育的支援が必要です。また、比較的重い障害を持つ子どもが、通常の学級に席を置く場合、障害にふさわしい支援がないケースもあるので、特別な支援を必要とするすべての子どもが、それぞれ必要にふさわしい教育を受けられるようにすることが求められます。 |
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C |
現在の障害児教育の水準を低下させず、障害児学級の廃止などの「再編計画」は抜本的に見直すこと。
理由=現在の障害児教育諸制度は、長い歴史をもち、関係者のたゆまぬ努力のなかでつくりあげた大切な財産である。養護学校への不就学者をなくす取り組みのなかで、以前は「発達しない」とまで言われていた重症心身障害者児の学習・発達が、教育実践のなかで確認されてきた。視覚障害、聴覚障害、肢体不自由などの障害についても、貴重な実践と研究が積重ねられてきました。
障害児教育のこうした経験や蓄積は、新しくはじめるLD、ADHD、高機能自閉症などの子どもへの特別な教育的支援に積極的に生かされるべきです。
文科省は、障害児教育の大々的な「再編」を打ち出している。性急な学校制度再編の押し付けは、障害児学校・学級の貴重な経験や蓄積を台無しにしかねません。
また、障害児学級を廃止して、「支援教室」を設けるとしていますが、「教室」には、「学級」のような、安定した担任の配置の保障がありません。子どもと安定的にかかわり、子どもの心を開き、心を通わせる教員がいるかどうかは、障害をもった子どもが健やかに育つうえで重要な問題です。その保障を奪う廃止は止めるべきです。
足立区でも障害児学級の長い貴重な経験や蓄積があり、それを生かすことが必要と考えます。 |
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D |
「特別支援学校」構想は関係者の合意に基づき、必要な条件整備の中で
理由=現在、障害児諸学校は盲学校、聾(ろう)学校、養護学校というように、障害種別に設置されている。文科省は、それらを「特別支援学校」に一本化するとしています。しかし、一本化しても、それぞれの障害に対応できる教育条件が確保されなければ、教育の後退は避けられません。法改正如何に関わらず、区教委として、学校制度のあり方は、関係者の合意に基づき、必要な条件整備を行う中で、検討すべきです。
また、現在の障害児教育の充足状況は「教室が足りない」、「通学に2時間以上」「生徒が過密で、人手が足りず、食事介護にも手がまわらない」など深刻な状況を認識し、これらの条件を解決することが求められています。 |
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E |
障害児教育の内容・方法への不当な介入はしない
理由=文科省は、障害児教育の再編を通じて、具体的な教育方法にまで口を出そうとしている。個別の子どもの教育に関する計画作りは従来から各学校で取り組まれているが、教育行政の側から、その画一化を求める指導が強まっている。ある障害児学校では、画一的な「計画書」が強制され、「子どもを見ていない管理職が、子ども一人ひとりの目標を決める権限を持つようになった」「計画書が一人歩きして、子どもの実態にあった指導ができない」等の弊害が生まれています。また、一部の政治家や行政が、子どもに人間の尊厳を伝えようと父母と教職員の合意で進めてき性教育を意図的にゆがめて描き出し、乱暴な介入を行い、関係者の厳しい抗議を受けています。
教育内容・方法への不当な介入は、教育基本法第10条が厳しく禁じている。教育内容や方法は、学問的な到達や関係者の合意を大切にしながら、自主的に進めることを改めて確認すること。 |
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第7章 教職員の専門性及び資質向上では研修・研究にかなりの時間が必要と推測されるが、その時間の保障が触れられていないので書き込む必要があります。第8章ではプライバシーの保護対策が触れられていないので、しっかり書き込むことが必要であります。
最後に学校教育の「荒廃」が指摘され、「学力低下」を克服することが強調されています。しかし、これまでの文科省が打ち出してきた「教育改革」、学校5日制や「ゆとりの教育」、新学習指導要領が機能しなかったことが表れていると考えます。
過度な競争教育、差別・選別教育などから教訓を引き出し、いま注目されている平等教育、学びあい教育に謙虚に学び、地域の協力を困難にするなど弊害が多い「学校選択」制の見直しなど区が解決を求められている問題と合わせて、国や都言いなりの「制度改正」ではなく、区の現状を踏まえた自前の特別支援教育の方針に転換するよう要望を付しておきます。 |