区長あいさつ

 平成15年第2回区議会定例会をご招集申し上げましたところ、議員の皆様方には、ご多用中にもかかわらずご参集をいただきまして、まことにありがとうございます。
 開会にあたり、一言ごあいさつを申し上げますとともに、区政2期目にあたっての所信を述べさせていただきたいと思います。
 まず、はじめに私は、今回の選挙で、自由民主党、公明党、民主党、自由党のご推薦と多くの区民の皆さんのご支援によりまして再選をさせていただきました。この場をおかりいたしまして、改めまして、ご支持をいただきました皆様方に心から厚くお礼を申し上げます。今後は、区民の皆様のご期待にこたえるべく、足立区のさらなる発展のために全力を挙げて区政の運営にあたらせていただく覚悟でありますので、議長をはじめ、区議会議員の皆様方には、ご指導とご協力をいただきますよう、よろしくお願いを申し上げます。
 我が国の状況を見ますと、依然として先行きの不透明感が払拭できない中で、小泉首相の進める構造改革がさまざまな批判や抵抗を受けつつも、総体としては少しずつ前進をしております。国民の間には、依然として膠着した状況への不安と不満が多くあるものの、「このままでよいとは思わない」、「改革を避けて通ることはできない」ということは、いまや国民的合意と言ってもよい状況であります。
 政府は、今後の改革の道筋をより鮮明にするための具体的な取り組み宣言を盛り込んだ骨太の方針2003を6月中に取りまとめるべく、経済財政諮問会議などで検討を進めていると伺っております。今後、地方には、権限とともに大きな責任が移されることは間違いのないことでありますし、税源移譲をどうするかの議論は残されていますが、現在より財政が豊かになることはまず考えられません。過渡期の厳しい状況が今後もしばらく続くと思いますが、私は、この時期を前向きにとらえ、足立区がこれまで抱えてきた課題を解決する絶好の機会とすることが大事であると思うのであります。
 この間、足立区では、包括予算制度や構造改革特区、あるいは昨年から取り組んでおります足立区の構造改革戦略などをめぐって、多くのマスコミの取材や自治体の視察が相次いでおりますが、改めて見回しても特に変わったことをやったということでもないわけであります。足立区が、多少とも注目をされた理由は何かと言えば、いろいろな課題について、ともかくも実践している、あるいは挑戦しているということではないかと思うのであります。とにかく一歩進めようという態度、姿勢、これがこのたび世間の耳目を多少なりとも引いた理由ではないか、このように思うわけであります。これから、ますます厳しくなる状況の中で、このとにかく一歩進めようという姿勢、実践力といった資質、あるいはDNAとも言うべきものが活性化すれば、足立区は、これまでの足立区を脱皮し、次なる舞台に進むことができると思うのであります。
 東京都の石原知事は、「東京から日本を変える」として、「より大胆な改革を進め、また国にもどんどん注文をつけていく」と、2期目に入る自らの抱負を述べておりますが、私もいまが足立区の自己進化を遂げる千載一隅のチャンスであるととらえ、足立区から東京、そして日本を変えるという意気込みで、今後の区政運営に取り組んでまいりたいと思っております。
 さて、1期目の4年間は、危機的な財政状況の中で、文字どおり背水の陣という気持ちで、議会、そして区民の皆さんのご理解とご協力をいただきながら、区政・財政の構造改革に取り組んでまいりました。おかげさまで、財政も危機的な状況を脱し、今後の困難な状況に対応するための改革の一歩を踏み出すことができました。2期目のこれからも、区政と財政の残された改革課題を解決すべく、その第2ステップへ移行しなければならないと考えております。
 まず、財政の構造改革でありますが、国においては、分権による地方への権限と責任の移譲に当たり、事務事業の見直しと国庫補助・負担金の廃止・縮減を行うこと、同時に地方交付税の改革と税源移譲を含む財源配分の見直しなど、いわゆる「三位一体の改革」を進める方向にあります。保育所運営費や義務教育費国庫負担制度などを見直し、一般財源化するという具体案も提案されておりまして、こうした補助金などの見直しによる削減額の何割を税源移譲すべきかといった議論もなされております。当然のことながら、各省庁や自治体からはさまざまな異論も出ているわけでありますが、既に述べましたとおり、基本的に財政状況は中長期的に依然として厳しい状況が続くと考えるべきであります。
 そうした中で、学校などの大量の施設が順次改築時期を迎え、本格的な都市更新の時代に突入いたします。増大する権限と責任、そして確実に縮減する財源、こうした厳しい条件下で自立的に都市更新を行うためには、これまでにない財源確保や運営のためのさまざまな工夫が求められるところであります。既に、PFIや官民のパートナーシップ、そしてアウトソーシングなどを進めておりますが、今後もこうした新たな手法の定着と拡大を図っていく必要があります。
 次に、区政の構造改革であります。今年度、全庁実施した包括予算制度は、今後の財政の構造改革の基礎となると同時に、区政の構造改革のスタートともなるものであります。各部が、自律し責任ある施策の執行体制を築くことは、区政の構造改革の柱であり、これまでも部長権限の強化を中心とした庁内分権化を進めてきたところであります。今後、組織の自律をより実効性あるものとするためにも、重要なことは職員の人事制度の改革であります。現在、国においても公務員制度の抜本改革が進められており、また、23区におきましても各区共通事項の見直しを検討しておりますが、区としましても、現在進めております基礎調査を踏まえ、時代の要請に合った柔軟な人事制度への改革に本格的に取り組んでまいります。
 こうした区政・財政の構造改革とともに、私は、2期目の課題を、これまでの役所の中の改革から、いよいよ社会の構造改革の実現へと重点を移していきたいと考えております。これまでの改革は、あえてバラ色の夢を描かず、具体的な改革手法を掲げ、これを着実に実践することに重点を置いてまいりましたが、これからの課題は、区民の皆さんに体感できる施策の実現に重点を絞ってまいります。既に、区民の皆さんとの協働による新基本構想の策定作業が始まっておりますが、今後は、本会議にもその設置を提案させていただいております基本構想審議会の場を通じ、基本構想そして足立区の将来ビジョンと基本計画など施策の内容を明確にしてまいります。
 区のホームページには、公募した基本構想策定区民委員の皆さんの検討経過が膨大な議事録として掲載されつつあります。その内容をごらんいただきますと、小学校5年生から79歳の高齢者まで、足立区はこうあってほしい、足立区の問題はこれだといったことがほぼ共通して語られていることがおわかりいただけると思います。私が感動いたしますことは、さまざまな年齢、職業、生活環境にある区民の皆さんの思いが、幸いにしてと申しますか、あるいは当然のことながら、足立区を思うという1点において全く同じであり、そして私どもが感じていた問題認識とあまり違わないという、このことであります。
 例えば、大学がない、他の地域に誇れる文化や芸術の拠点がない。こうしたことはこれまでも要望としてあったわけでありますが、十分な成果が出せなかったところであります。いま、改めて原点に戻り、区民がいったい何を求めているのかということを探り、真の課題解決に結びつけるため、区民との協働による基本構想づくりを進め、さらには策定後の区民参画による構想・計画の実現を目指してまいります。
 私は、選挙期間中の公約で、区のイメージアップと産業の振興、真の福祉と正義社会の実現、教育立区、学力の増進への取り組み強化、行政の大胆な改革と危機への備えを申し上げてまいりました。私は、これら公約を実現するための視点の一つとして、文化というキーワードが重要ではないかと考えております。
 足立区のイメージアップと産業振興は、足立区の持つ文化力の向上なくしては実現できません。大学などの高等教育機関がない、芸術や文化の発信拠点がないといったことは多くの区民が共通に感じている課題でありましたが、来年の秋には北千住駅西口にシアター1010がオープンし、足立区の文化の拠点となることが期待されております。また、来春完成する再開発ビルの一角には、我が国最大の弁護士会による大規模法律事務所が開設される予定であり、法科大学院との連携による授業が展開される見通しであります。そして、ペデストリアンデッキには、パブリックアートが設置されることも固まってまいりました。庁舎跡に建設されますデジタルファクトリーなども、SOHOなどとともに、文化、芸術との連携が重要であると言われております。今後進められます新田や西新井地区の再開発事業、そして統廃合による学校跡地という資産の活用などを検討する上でも、これらの開発を足立区の文化力を高めるプランと組み合わせていくことが重要になると考えられるわけであります。
 また、まちづくりに限らず、例えば電子自治体化や地域情報化を目指す施策においても、インターネットを活用した双方向通信の基盤整備が進み、ケーブルテレビなどのメディア、あるいはミニコミ誌、タウン誌などのオールドメディアが活性化すればするほど、それに盛り込まれる情報内容の充実が求められます。こうした情報基盤が整うことも文化力の底上げに貢献するものと思うのであります。
 いずれにいたしましても、「住みやすいが、今ひとつ魅力に欠ける」といった足立区の持つ弱点を克服するためにも、区のイメージアップと産業の振興、教育立区、学力の増進への取り組み強化という公約実現に向け、大学などの高等教育機関や文化・芸術拠点の誘致を含めた文化力の向上策に積極的に取り組んでまいりたいと思っております。なお、23区における大学等の設置を阻んでおりました工場等制限法につきましては、昨年廃止されております。
 公約実現のための二つ目のキーワードは、人間力ということであります。内閣府に設けられました人間力戦略研究会では、人間力とは、社会を構成し、運営するとともに、自立した1人の人間として力強く生きていくための総合的な力と定義しておりまして、教育改革の中で提唱されてきた生きる力の理念をさらに発展させたものとしております。人間力低下の原因としては、目標の喪失、経済の成熟化、人材育成機会の不足、職業能力のミスマッチ、社会全体の規範力の低下などが考えられますが、こうした状況は足立区にも当てはまり、また、さまざまな課題の要因にもなっております。急速な少子高齢社会の進行は今後の区政運営の大きな課題でありますが、この課題を乗り越えるためには、行政の力だけではなく、地域、家庭、そして区民の皆さんとの協働が欠かせません。特に、今後、高齢者の増加が予想される中で、現在も行っているシルバー人材の活躍の場をさらに広げたり、コミュニティビジネスを開拓して元気な高齢者の力を活用するなど、一層の社会参加の拡大が必要であります。
 また、基礎学力やコミュニケーションなどの対人能力の向上、家庭における教育力などの向上、地域のコミュニティ活動の活性化、就業・起業意欲の活性化など、人間力に関するさまざまな力を総合的に向上することが少子高齢社会を乗り切るかぎであると言えます。そのために、区民の皆さんの力を磨き、向上するための方法の提供や支援が必要であります。
 また、区民の皆さんが活躍できる場といったものも用意する必要があります。この春に、足立区は、人材ビジネスを活用した雇用創出特区ということで構造改革特区の認定を受けましたが、これなども区民の実力を磨き引き出すよい機会ではないかと思っております。いま、若年雇用の問題がクローズアップされておりますが、そもそも働く意味がわからないといった本人の意欲の問題があるとすれば、これは小学生や中学生時代から、なぜ働くのかといったことを教えなかった家庭や地域社会、あるいは働く喜びや意味を伝えられなかった教育の問題でもあるわけで、こうした点について学校などと連携した施策を行えば、時間はかかるかもしれませんが、一人一人の人生をさらに豊かにし、結果として足立区の財政基盤にも及ぶ改革が期待できるものと考えております。
 特区に関連して、公の施設の管理が民間企業にも全国規制緩和される見通しであり、これにより区内のさまざまな施設の管理について、民間の知恵と力を発揮できる場を広く提供できるはずであります。さらに、現在、NPO支援1%システムを検討中であります。区民税の1%程度を本人の意思により希望するNPO活動に投入する、あるいは、包括予算制度の中で予算の一定割合をNPO支援のために支出するなどが考えられます。今後、議論を深めてまいりたいと考えておりますが、これなども区民との協働の場を広げるという点では人間力向上策の一環と考えることができるのではないかと思います。
 子育て、教育、就職、仕事、健康と、人生を家族とともに安全に、そして安心して送れるよう、区民の皆さんは毎日懸命に努力をされているわけでありますが、その区民の皆さんの役に立ち、後押しをして、さらに豊かな、実りある生活を実現してもらうことが行政に課された役割であります。足立区という社会の構造改革を実現するには、足立区にある資源を十分に活用することが必要でありますが、その資源とは何かといえば、実はほかならない足立区民の皆さんの持っている力であります。この根本のパワーアップなくして、足立区の構造改革も実現できないと考えるわけであります。産業振興、真の福祉と正義社会の実現、教育立区、学力の増進への取り組み強化という公約の実現に向け、頑張る区民を支えるための人間力向上のための施策を強化してまいりたいと思っております。特に、次代を担う子どもたちへの教育は最重要課題と認識し、基礎基本学習の徹底と学力の向上を柱に据えた、さらなる教育改革を進めてまいります。
 さて、これまで申し上げましたような施策や改革を行う上で最も重要なことは、言うまでもなく行政の自己改革であり、職員の意識改革であります。公約では、行政の大胆な改革と危機への備えと申し上げてまいりました。行政改革につきましては、これまでも区民そして議会のご理解とご協力をいただきながら断行してきたところでありますが、今後の行財政状況を考えますと、さらに厳しい自己努力が求められるところであります。行革に終わりはないわけでありますが、これまでの成果に甘んじることなく、この節目に、再度、すべての自己診断を徹底し、行政における優先順位を明らかにし、むだを徹底的に消し去ることが、今後の区民との協働を進める上での絶対条件であると考えており、あらゆる場面において、さらに大胆な改革とスリム化を進めてまいりたいと思います。
 また、区民の安全・安心を脅かす危機的事態は、突如として出現いたします。常日ごろから迅速な行動ができるよう、既に危機管理室を設置したところでありますが、さらに関係機関のご協力を得ながら態勢づくりを進めてまいります。
 私は、こうした区政運営を通じ、生活のしやすさ、学びの環境、緑と水の豊かさ、区政透明度、そして行政の効率化の五つについて、東京でナンバーワンを目指し努力してまいりたいと考えております。
 以上、2期目に際し、今後の区政運営について私の所信を申し述べさせていただきましたが、もとより区政は議会との協力があって初めて全うされるものであります。車の両輪の例えどおり、今後とも十分な意見交換を行い、より一層区民生活の向上につながる区政を実現してまいる所存でありますので、議員各位におかれましてはご理解とご協力を賜りますよう重ねてお願いを申し上げます。
 なお、今回ご提案申し上げました議案は20件、報告5件、諮問1件であります。各議案の提案趣旨につきましては参与よりご説明いたさせますので、慎重にご審議の上、ご決定くださいますようお願いを申し上げまして、私のあいさつとさせていただきます。ありがとうございました。